雨の日


雨の日

むかしに書いたコラムです。


梅雨どきに書いたのですが、なんとなく雨ということで(午後は気持ち良く晴れましたね)


 


「マリーナ殺すにゃ雨ふりゃいい」


雨の日のマリーナこそ何にもすることがない。
もちろん、雨のマリーナを訪れる人もほとんどいない。
マリーナによっては、この梅雨の時期に無理を承知で、それでもやっぱりお客様に来ていただくための涙ぐましい努力をしているところもある。
いっそのこと、近くの古都にまねてあじさいでも沢山植えて絣の着物でも着せた女性をおいてお抹茶でも出したほうが賑あうのかもしれないけれど、そこはマリーナ。
船や海に関するさまざまな座学を中心としたセミナー企画がその一つで、夏のシーズンを目前にして、知っているようで知らない基礎講座を開催する。
船底塗装の塗り方、塗装メーカーの開発者に来てもらってその製品の特性や扱い方の注意点を説明していただいたり、エンジンメンテナンス、普段サービス工場で油まみれになってエンジンの呼吸を聞ける老練のエンジニアの話し、操船講習はもとよりお魚さんの生態から釣り方、お料理方法まで、できれば地元の漁師さんが方言交じりの話しが望ましいなどなど。ヨットの方ではセール屋さんや著名レーサーによるセールカーブの作り方、特殊艤装や工夫のあれこれなどなど、なかなかありがたい。が、そんな涙ぐましい努力を紹介していただいても、マリーナにある50人収容の研修室が埋まるかどうかの悲しいレスポンスである。つまりは収容隻数からすると3~5%という数字である。
その数字の良し悪しは別にして、それくらい雨の時期には忘れ去られるマリーナとなる。


が、しかし、本当に雨の日のマリーナといのはなんにも魅力がないものだろうか。
雨の日はみんな何やっているんだろう。雨の日と言えば、家から出たくない、というところで思考回路がとまってしまう。
でも家の中で、雨だれを聞きながらリラックスしたいなんてのはまだまだロマンチック過ぎる年齢だろうか、それに置き換えて、船の中を想像すると、狭いキャビンに閉じこもって、デッキに降り落ちる雨の音を聞きながら、汗をかきかきビルジを汲むなんてのは最低だろうな。
でも例えばそのキャビンの中が、陸電でジェネレーターの音を聞かずに好きな音楽をご近所迷惑を気にすることなく目一杯流し、好きな酒でもちびちび舐めながら、携帯電話の電源も落とし、日ごろの社会の煩雑さから行方不明になって、まして、僕は男なのでの発想で乏しさが滲み出るが、素敵な女性でもいてくれれば想像が膨らむ(もちろん最愛なる奥さんのことです!)。
ご家族連れだったら、例えば普段使わないスパイキを引っ張り出してきてロープワークで船に使用するいろいろなものをみんなで作ったり、ルアーの手入れをしてみたり。船で使えるハードな男の小道具(例えばナイフ)を研いだり、子供たちにはその正当な使い方をそのナイフで子供達の為に昔懐かしの竹とんぼを作ってみたりして教えたり、凝った方は流木を削って自分の船のハーフモデルなんてのもおしゃれかな。普段見ないチャートで夏休みの航海計画をみんなで練ったり、GPSの忘れ去られた各種の設定をしてみたり、どうせ家でごろごろとTVやゲームにはまるよりは、子供たちに普段陸では見せられないお父さんの尊敬に値するような意外な一面を演出することも可能だろう。
そこで、昼ご飯はお父さんがお湯を足して作るカップヌードルでは粋ではないのは勿論で、大人は血と肉、パンとワイン、子供達にはフレンチトースト、せめてそんな使い方はどうだろうか。
でも桟橋に人影が無いのは寂しい
やっぱりどう考えても、雨は嫌だ。
もしこの日本から梅雨というのが無くなれば、もうこの5月から夏が始まり、一年の半分はどっぷりと夏を遊べるのだろうけれど。
愚痴を言っても仕方ないから、大陸の高気圧と太平洋の高気圧の攻めぎ会いを、普段読めない沢山の本達とともに楽しむことにしよう。
本題はそれたけれど、雨の日のマリーナ、楽しくならないものだろうか。
むかし、ロングビーチの小さいマリーナで人影の無い寂しい雨の降る日に、船上から聞こえるサックスの物悲しい音色も実に格好よかったけれど。



 



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