スマートキャプテン 第2回  離着岸の心得


スマートキャプテン 第2回  離着岸の心得

SMART DRIVING 船長の心得とへルムワーク

4:6の法則

操船の基礎はすでにいろいろな場所で紹介されている。

もちろん、海技免状を取る際にも教わるが、それは基礎となる一軸船での、しかも通り一遍なもの。免許を取ったからと言ってとも、飛行機のライセンスのように完璧を保証されたものではなく、経験の第一歩を踏むもの。とても実際に高価な船を無傷で離着岸できる経験を積んだものではない。2軸船、特に30フィートを超える大きさになると、操船技術だけではなく、綱を取ってくれるクルーとの連携も大切になる。ここではクルーの動きまで含めた操船術を検証し、ワンステップ上の操船をマスターしたい。

第二回:離着岸の心得(続き)

マリーナや港に入港する際には、長い間前進しか使っていなかったクラッチが、両舷ともちゃんと後進につながるかどうか確認することをお勧めする。港の中は狭い場合が多く、その中でいきなり後進につながらないということがわかると、そのまま事故につながることが多いからだ。実際に安全重視の本船でも、瀬戸内海のフェリーが岸壁衝突を起こした事故など結構多いからだ。

さらに何処に、どのように着けるかをブリッジにクルーを集めて指示を出す。その際には、着岸場所とその時の風をよく観察し、自船が守れて離岸しやすい場所、向きなどを考える。基本的には船首を風上に向けるのが安全上一般的なのはいうまでもない。桟橋か岸壁かでフェンダーの位置が異なり、もやいに使用するロープの太さ、長さも違ってくる。さらに擦れ止などの細かい備品も違ってくる。風向きなどで入船、出船どちらにするのかで左舷右舷を明確にし、

「桟橋、入船、左舷。」この3っつは最低伝える。

例えば、ジョン氏は奥さんと子供に入港前、

「桟橋、入船、左舷。風が強いからまず僕が桟橋にわたって船首のもやいを仮どめする。そしたら手を挙げて合図をするから右舷を後進に入れて、船が桟橋に当たりそうだと思ったら左舷を前進に入れて船尾を桟橋に近付けてくれ。ティムはフェンダーを桟橋の高さを見て調整しなおし、もやいロープは青い奴を使ってムアリングホールを通してクリ―トに舫い、投げやすいようにコイルしなおしておいてね。パパが桟橋にわたってから君の方に行き、手をあげたら僕にロープを投げるんだよ。あとは桟橋からロープを引っ張るから、ジョージは僕の動きに合わせて船を操船してね。」

とこれくらいの指示を事前に出している。

いずれにせよ、ちょっとでも風があれば船をエンジンのクラッチワークだけでホールドさせておくことは難しく、おおにして桟橋との位置関係が理想的になる時は一発勝負となることが多いので、事前にクルーとの打ち合わせが効力を発揮するのだ。あとは、どんな状態の時にどうなるかのシミュレーションの問題。ここではいくつか代表的なシミュレーション例を述べる。

着岸する際の留意点として、まずフェンダーなどのつけ方、ノット(結び)をクルー全員同じやり方に統一する。人それぞれ違うやり方があるが、それぞれのフェンダーがそれぞれのやり方で留めてあると、機敏な対応が必要な時にとまどい、ワンテンポ遅れてしまうからだ。

もやいに関しては、着岸前係船具につけたロープが投げやすいようにコイルをし直しておく。いざ放ったときに団子になって桟橋に届かず海に落とさないようにだ。仮係船の後にはスプリングを取らないと、風や潮流で船をホールドできない場合が多いので、予備ロープを出しておくこと。これはもし選択したロープでは足りない時にもすぐに役立つことができるだろう。

その上で船長が考えることは乗員の安全。陸側に誰かが飛び移らなければならないが、無理に飛び、万が一陸と船の間に落ちてしまうと取り返しのつかない事故につながることが多い。桟橋と船に押しつぶされなくても、陸側は桟橋でも貝が付着していることが多く、その貝でものすごい怪我をすることが多い。これも船長の責任だ。そのために、クルーが安全に飛べる最低でも一点を確保すべき船を操船することが必要となる。極端に言い切ってしまうと、安全にクルーが陸側に移ってくれさえすれば、実はこれで着岸の重要な部分はほとんど済んだと言っても過言ではないくらい、重要なことだ。

陸側に飛び移るクルー、船を着桟するというよりも、そのクルーがロープを片手に安全に飛びやすいように、エンジンの推力を使ってアシストするつもりで操船をする。ただ、強風時などは、人の力には頼れなくなるので、その推力を効率的に使う段取りが必要となる。

桟橋に渡ったクルーがまず行わなければならないのは、船首であれ、船尾であれ、必ず風上側からもやうこと。これはよく見受けられることだが、バウ着けに慣れているクルーは、風向き関係なくまずバウを舫おうとする。もし船首が風下であった場合、船首だけ決められてしまうと、風に押されて船尾が開こうとするのを推力を使って船尾を寄せることとなり、操船としては無理ができる。あくまで風上から舫いを取ってもらうことを船長は事前に指示しなくてはならない。そうすれば船尾、船首問わず、風の力に逆らうことなく自然に着桟することとなり安全度は増す。

風が強い場合などはスピードが要求される場合だが、それだけ事前の打ち合わせ事項が多くなるはずだ。桟橋に乗り売ったクルーにどうしてほしいのか。例えば船首から風を受けている場合、長さはアバウトで構わないからとにかく仮どめするのか、それとも後ろに泊っている船にぶつからないように、できるだけ長さを絞って留めてもらう必要があるのか、船尾の留めはどのタイミングか、またそれぞれの確認の合図はどうするのか、シミュレーションに基づいた打ち合わせを行う。でないと、船長はわけのわからないクルーを怒鳴りつけなければならない状態に陥るだろう。

しつこく述べるが、船は自船の行き足、風、潮流の影響により一定の場所に保持しておくことが難しい。例え、IPSやスラスターを使ってもその場にとどまるのは繊細な操船が要求される。強風下ではなおさらそのタイミングがシビアになる。クルーが陸側の風上に舫いを取ってくれれば、着岸のワンステップは終了となる。ここが船長とクルーの4:6の所以だ。

さて、係留した際は仮どめしてある舫いを、船首、船尾とも余裕のある太さのロープでしっかりととる。ロープ自体が船を守る命だ。そおロープを普段から大切にケアすることも重要。ヤーンがほつれていたり、経年により硬くなってしまったロープは切れやすく、そのロープとしての機能は使う前から失っている。

そして舫う際、解くときにはすぐに話せるようにできるだけシンプルな舫いを行うこと。他船と簿ラードなどを共有する場合には、他の係船ロープとからまないように意識してケアする。これはやるのも面倒なのでまれだが、船側、陸側ともにアイで係船している、もしくは長さがきつきつで使っているのを見るが、人がいる方、調整しやすい方を後からでも長さ調整ができるように配慮するべきだ。

また、場所にもよるが船のクリ―トの真下の係船具を使い、しかもきちきちに舫ってあるのもたまに見るが、あれでは揺れる船上のクリ―とが傷む。目には見えにくいが船とクリ―トの留め金具は、長手方向に強くできており、真横の力には比較的弱い。その時は大丈夫に見えて随時真横の力で揺れを繰り返しているうちに、船内側のクリ―ト台座が損傷を受け、止めボルトの緩みなどにつながってしまうだろう。

岸壁と桟橋ではその長さ、間の取り方が全く違う。船と一緒に浮き沈みする桟橋、干満差の影響を受ける岸壁、ロープの余裕の取り方が大きく異なってくる。スプリングラインは、陸側との損傷を避けて平行に止めることのほか、風や潮流の影響で船が走らないようにする役目がある。またスプリングとはばねのことだが、これは例え強く張ったロープでも長ければそれなりにロープ自体が伸縮するとうことでもあるので、それらを考えて適切な長さで取る必要があるのだ。

数分以上、長時間岸壁に係留する際には必ず擦れ止を施す。ロープが岸壁などにこすれて切れるときは、本当にあっという間の出来事となるので、ウエスでもなんでも擦れ止を施すことを面倒がってはいけない。

これらはクルーが行うことではあるが、その責任は船長にあり、船長は適切に指示し確認をしなければその責任をかっとうできないのだ。


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