スマートキャプテン 第3回  アンカーリングの法則


スマートキャプテン 第3回  アンカーリングの法則

SMART DRIVING 船長の心得とへルムワーク

4:6の法則

操船の基礎はすでにいろいろな場所で紹介されている。

もちろん、海技免状を取る際にも教わるが、それは基礎となる一軸船での、しかも通り一遍なもの。免許を取ったからと言ってとも、飛行機のライセンスのように完璧を保証されたものではなく、経験の第一歩を踏むもの。とても実際に高価な船を無傷で離着岸できる経験を積んだものではない。2軸船、特に30フィートを超える大きさになると、操船技術だけではなく、綱を取ってくれるクルーとの連携も大切になる。ここではクルーの動きまで含めた操船術を検証し、ワンステップ上の操船をマスターしたい。

第三回:アンカーリングの法則

夏、静かな入り江にアンカーリングをして、海を泳いだり、船から飛び込んで遊びたくもなる。冬でもやはり静かな入り江にアンカーリングをしてゆったりランチを楽しむというのもボート遊びの優雅なひと時だ。花火大会でもアンカーリングをして、うっとうしい排気音や排気臭にじゃまされることなく、ゆったりと真夏の夜空の祭典を堪能したい。

 それと、これはあまり話題にはしたくないことだが、万が一洋上を航行中エンジンが止まってしまったら。航行不能、となれば海底に届かなくても投錨することをお勧めする。風や潮で流されても、いくらか風上に船首を向けてくれる働きをし、船の安定に貢献するだろうし、暗礁などの乗り上げ事故を未然に防ぐには船がかかる前に錨がひっかかってくれ、大きな事故を未然に防ぐ良策となる。船首に普段ぶらさがっているアンカーを活用するということはとても大事なことだ。

 さて、我々がアンカーで楽しんでいると、後続の船が右往左往、アンカーが決まらず、しまいにはどこかに行ってしまうという光景を見かける。このような状況はその船長にとっても、何度も錨を海中に投げ込んでは重い錨を巻き上げているクルーにとっても、もう勘弁してくれという状況で、同船しているゲストにとっても不安が募り船全体がフラストレーションの塊となり、はたから見ている我々もこっちに影響がないかついつい見入ってしまう。そこにいらいらとした怒り声など聞こうものなら、入り江全体が暗い雰囲気に包まれる。

 とはいっても、このアンカーリングが、ポンと海に錨を投げ込めばいいというものではなく、案外難しいものなのだ。ではどのようにすれば最小限で決められるのかを検証してみよう。いまさらといわれるかもしれないが、アンカーリングの手順を説明する前に知っていなければならないことをまとめてみよう。まず、アンカーと一言でいってもいろんな種類のアンカーがある。砂地に効かせることを考えたもの、岩場などで使うもの、そして、海底まで数百メートルというところで使うパラシュートアンカー。主に砂地で効きやすいように考えられている、ダンフォースやブルースアンカーは、よくプレジャーボートに装備されているのでご存じの方も多いだろう。大きさもその船に適応したものを使うのは言うまでもないことだが、これは日本では船検のJCIルールによって装備されているはずなので、まずは心配がないと思うが、念のため、自船にはどのようなアンカーが装備されているのか、また砂地に適したものなのか確認する必要がある。さらにそのアンカーについている錨索は、ロープだけなのか、チェーンがついているのか、これによっても効きが違ってくる。錨索についていえば、一番効きが良いのはオールチェーンのもの。チェーン自体がその重みと形状からアンカーの役目を果たしてくれるからだが、案外扱いが面倒で、さらにバウのアンカーロッカーにはかなりの重みができることになり、またいざという時に簡単に切って逃げることができなくなる。錨から5mくらいだけチェーンにして、あとはロープというのも有効。海底におりたアンカーをチェーンが効きやすいように補佐し、また、アンカーが暴れてしまわないように押さえつけてくれる役目を果たしてくれる。ただ、巻き上げる際にロープの巻きとチェーンの巻きに気を使わざるを得ない。すべてがロープの場合が一番効きにくい。アンカーをしっかり海底にバイトさせるような動きを船でしてあげないと、ただ海底に落としただけではアンカーの自重だけに頼ることになり、なかなか難しいかもしれない。いぜれの錨索にせよ、事前準備として大事なことがあるのだが、それは時間のあるときにでもすべての錨索を出して、5m刻みで良いからマーキングをしておくこと。実際にアンカーリングの時に最低水深の3倍の錨索が必要といわれているが、実際に打っているときに錨索がどれくらい出たかを掌握できないからだ。 また、面倒ではあるがお勧めなのはアンカーがどの位置にあるのかがわかるようにパイロットとなるブイをアンカーの頭に準備すると良い。とくにオールチェーンの錨索をお使いの方にはお勧めする。どこにアンカーが位置するのかブリッジから一瞥できるし、万が一、岩にバイトしていまい上がらない際、頭に付けたガイドロープを引っ張ることによって爪が抜けることもあるからだ。我々の72フィートには、必ずこのパイロットブイをつけるようにしている。

 さらに、ウインドラスはどのようなものが付いているかも確認しておこう。アンカーはレッコという言葉に表れるように、海底に放り込むという考え方だが、実はその際、爪が翼のようになって海中を斜め横に走っていき着底する。その状態で最後に引いてやれば爪がしっかり海底にバイトするように作られているのだが、ウインドラスによっては下すときにジーコジーコとモーターのスピードでゆっくりとしか下せないものものある。それにより操船も変わってくるのだ。

 それらを踏まえたうえで、6:4の法則に移ろう。まずは、その静かな入り江に侵入するところから。ヘルムスマンは事前の引き波が、先に投錨している船の迷惑にならないように自船の引き波に注意をしてデッドスローで侵入すること。例え他船がいない場合でも、自船の引き波の影響を受けないにケアすることが必要。そして魚探があるのであればあらかじめスイッチを入れておこう。魚探から様々な情報を得られることができる、まずは海底の底質、岩場なのか、砂地なのか。砂地でも海藻が多いかどうか。そして深さ、深さによって錨索をどれくらい出すかを決定する。魚探がなければ、海図を慎重に眺め測探機で探ったほうが良い。クルーがいるのなら、バウに配置する。バウから海底の様子が探れ、漁師が入れた魚探に移らないしかけのラインなどを目視できるからだ。その状況を操船席のヘルムスマンに伝え回避させることはバウに配置されたクルーの大事な役目。また、泳いでいる人、潜っている人、潜水具の泡などがないかも確認してもらう。

 海で使うルームという言葉はご存じだろうか。アンカーの場合、自船が投錨し、バックさせて錨索を繰り出し、なおかつ風や潮の影響を受けて船が錨を頂点にして触れまわっても安全を守れる水域、それをルームという。例えば、投錨している他船の近いところでアンカーを入れても、そこから錨索を繰り出す目安として水深の3倍の長さを考え、スペースが十分であればルームとみなすが、その近辺にタコつぼや海水浴場のブイに、錨を頂点に船がかかわるようであれば、ルームがあるとみなされない。また、それらが近くにあると、アンカーをあげる際に、万が一そのしかけのロープを拾ってしまうことがあり、アンカーはあげられない船は固定していないという非常に困った立場に追い込まれるからだ。他のロープを切断してしまうのはもっての他、なんとかそのからまりを短時間で処理しなければならないことを考えると怖気ができる。

 このルームの見極めがいわば船長の腕の見せどころで、様々な経験を基に風や潮を想定して適切なルームを探り当てることが重要だ。経験の中にはその場に限った特色も含まれる。たとえは、午後になり海風が上がると、山からの吹き下ろし、川への吹きこみ、潮の影響、そこに泊まっている他の船の向きがみんな同じ方向に素直に向いているか、ばらばらな向きを示しているのか、なんらかの自然の影響なのか、それらを総合的に判断しなくてはならない。

 ルームを見出したら、クルーにどのあたりに投錨し、何メートルの水深で何メートル錨索を出すかを指示。クルーは海底が見えるようであれば底質がどうかを見る。たとえ砂地でも海藻の上にアンカーを落とせば、アンカーに海藻がくるまってしまい爪が立たなくて走錨ということもあるからだ。そして船長の確認によりレッコ。レッコと言っても錨を放り投げてはいけない。錨が水中を走っていくことを考えて、その翼がちゃんと働くようにそっと海中に入れるべきだ。フリーに錨索を出せるのであればアンカーが水中を走っていくのが見えるはずだ。着底した感じを錨索から感じたら、船長に指示を出してゴーアスターンをかけてもらう。船の後進にあわせて錨索を繰り出し、指示された長さで決める。その際に船が惰性で後ろに下がっているくらいが良い。アンカーが海底にバイトすれば、錨索が張って船も止まる。すぐに周りの形式を見て、陸地の建物、電信柱、山、木など対地で自分の見通し位置を観察し、自分の海の上での位置がどういう位置関係かを確認する。さらにパイロットブイを付けていれば、その位置に対する船の向き、風上にパイロットブイがあるかを確認しておく。そしてしばらく観察を続けること。錨索のテンションを確認しながら走錨していないと自信を持った時に初めてエンジンを切る。 だからとって、常に陸地との見通しの確認を怠ってはならない。直床した海底が、たとえば斜めのところで、それが爪をはずしやすい地形にあることもあり、または風の振り回しでそういう状況に変化してしまうこともあるからだ。また海藻を引きずってしまい、爪かかりが実は少しだったなんてこともある。 泳いでいる人がいるときにはなおさら不意にプロペラが回らないようにエンジンストップするが、なにせ錨索一本でいつ何が起こるか分からないので、すぐにエンジン起動できるようにしておく。他船の動向がこちらにかかわりがないか、走錨はしていないか、常にだれか一人は必ずウオッチし続けることをお勧めする。

 楽しい船遊びの小道具として、救命浮環などを使うと良い。普段、しまわれている浮環のロープをまとめなおすこともできるし、泳いでいる人の近くに投げる練習にもなるからだ。 さて、抜錨の準備。まず、点在している遊び道具、スイミングステップなどをしまうことを忘れないように。遊泳者がスターンに居ないことを確認してエンジン始動。クルーはバウに配置、アンカーの位置がどこにあるか分からない場合は、錨索がどっちの方向に出ているのかクルーが指し示す。その報告に船を回頭、バウスラスターを使っても良い。錨索がストレスなくまきとれるように船位を確認しあいながら、巻き取りを開始。その巻き取りスピードに応じて船を進ませる。ウインチだけの力で巻き取ると、かなりの負荷を持たせることになるので、必ずクルーの錨索の方向、まき具合を考えて船をアンカーの真上に行くように操船する。間違っても錨索を乗り越えていき、船尾に絡まないように配慮すること。真上に来たら行き足を止め、アンカーが巻き上げられ、クルーがしっかりと固縛するまでホールドすること。この際、事前にクルーとは手信号などの取り決めをしておいたほうが良い。我々は腕を指し示すことで錨索の方向と角度がわかるようにしている。もう一人クルーがいればアンカーロッカーの中で、巻き上げた錨索が絡まないように整理させることも次使うことを考えれば重要。たまにあることだが、アンカーが海底に引っかかってしまい、にっちもさっちもいかないときがあるが無理は禁物だ。そーっと船の前後進を使って揺さぶってみて、それでも駄目であれば360度船を回して試す。しかたなくロープカットとなった場合は、切った残りロープが浮いてこないように、何か錘になるようなものを取りつけてレッコするしかない。  巻き上げたアンカーはホルダーに固定し、安全策を取りつけ走行中にアンカーがずれてしまわないようにする。万が一、走行中に安全策なしでアンカーが脱落してしまえば、想像したくない重大な事態となりえるからだ。

 このようにアンカーリングひとつとっても、事前にクルーと打ち合わせをすることによりスムーズの決めることができる、船は乗り合わせた全員の運命を共にするため、一人の運用よりできるだけ全員の協力を得られるように普段から心がけたい。


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