スマートキャプテン 第4回  ロープワーク


スマートキャプテン 第4回  ロープワーク

SMART DRIVING 船長の心得とへルムワーク

4:6の法則

操船の基礎はすでにいろいろな場所で紹介されている。

もちろん、海技免状を取る際にも教わるが、それは基礎となる一軸船での、しかも通り一遍なもの。免許を取ったからと言ってとも、飛行機のライセンスのように完璧を保証されたものではなく、経験の第一歩を踏むもの。とても実際に高価な船を無傷で離着岸できる経験を積んだものではない。2軸船、特に30フィートを超える大きさになると、操船技術だけではなく、綱を取ってくれるクルーとの連携も大切になる。ここではクルーの動きまで含めた操船術を検証し、ワンステップ上の操船をマスターしたい。

第四回:ロープワーク

桟橋に何気なく係留しある船のもやいの取り方やフェンダーの下げ方でロープワークをみると、乗らずともその程度がわかる、とは失礼な言い方だろうか。

 が、やはりゲストとして招かれたその船の情報として、クルーワーク、ひいては船長の技量となると大げさだが、それらを如実に表しているこれらの事柄に、どうしても目が行ってしまう。私はそのもやいの取り方やフェンダーワークを目の当たりにして、ヒエー「怖いなー、乗りたくないなー」と実感することがあるほどだ。

 ロープワークは、品格ある額縁入りで壁に飾ってあるノットボードなどをみるといろんなロープワークがあり、とても楽しい。あれらは、ただの一本のロープを、それぞれの目的に応じて工夫され、さらに長い時間をかけて洗練された先人たちの教えである。いずれも最低限の動作で、十分な強度を保ち、なおかつまた一本のロープに戻しやすいように、試行錯誤を繰り返し完成されたもの。

 ロープワークは、船だけでなくアウトドア関連でも専門書がたくさんある通り、船を離れた実生活でも役立つことが多い。それらの専門的なことは様々な本を読んでいただくこととして、だが、それらの本を読んでみると、こんなに沢山のノットを覚えなくてはならないのかと恐怖におののく方も多いと思う。

 ところが、セールをロープで操る帆船は別として、近代ヨットでさえ実ははあれほど多くのノットやロープワークは必要としない。ましてやボート、ロープを束ねるコイルの仕方を含めて、せいぜい4つのやり方だけを徹底して覚えておけば十分だ。今回はそのロープワークについて、4:6の法則を交えて紹介しよう。

ロープワークはクルーの間で統一する。

 まず、ロープについてだが、今いろいろなロープが市場に出回っている。それぞれの材質や編み方によりその特性があり用途が限定されているものもあるので、その選択にはやはりお店の方なり、経験者の話を参考にされたい。たまに、小さい船で、工事用に使う黄色と黒のトラロープを使っているのをみかけるが、安価なのはわかるがきっぱりとあれは止めてほしい。船にありがちな伸びに対する切断強度が足りないのだ。また、古くなって硬いロープをそのまま使っていたり、船の大きさに適さないロープ径のものを使っているのも、これはロープワーク以前の問題だ。

 横浜のマリーナでは、夏に「もやい祭り」という、安全を守ってくれたもやいに感謝し、古いロープをみんなで供養、その際に新しいロープに変えましょうという催しを毎年やっているが、まー供養とまで行かなくとも、古くなったロープは交換すべきだ。

 車のタイヤもそうであるように、船の係船に使うもやいロープは、実は伸び縮みをしてばねの役目も果たしているので、摩耗したり経年劣化して硬くなったロープは、強度が極端になくなる。残念ながら車のタイヤのようにすり減った目安となるトレッドマークのようなものが無いので、まーいいーかと見過ごしがちだが、たとえ見た目にはきれいでも海上係留をしている船はやはり2年に一回は新品に交換したい。

 さて、船が着岸する前にクルーは最低2個以上のフェンダーを船側に下げることとなるかと思うが、例えば複数のクルーがそれぞれのやり方でフェンダーを結びつけたとしよう。その際、こんなことが起こりえる。さて岸に船が近づいてきた。ハッと見るとフェンダーの高さが合っていない。急いで複数あるフェンダーを調整しなくてはならないが、それぞれが違う結わえ方をしている。自分でした慣れたやり方であれば簡単に調整できるが、他人のやった見慣れない結わえ方に「どうなっているんだろう」と、まるでパズルを解くがごとく観察しての調整を強いられる。迫ってくる岸壁、船長からいつまでやっているだと怒号が響き渡る。やっとの思いで調整を済ませ、岸壁に飛び移り、投げられたロープを受け取ろうとすると、放り投げられたロープはくしゃくしゃに絡まってこちらに届かず海にあえなくドボン。もたもた、あたふた、素晴らしい船であればある程、着岸を見守る人々は笑いを堪えている。挙句の果て、ロープを受け取るとそのエンドは何かわけのわからない結びでアイ(輪っか)が作られている。あわてているので、とにかくそのアイをボラードに掛けると船の自重とともに風にピンと引っ張られたロープがその結び目からぶちっと切れた。こんな悲惨な光景を見たことがないだろうか。

 まーちょっと大げさではあるが、ちゃんとロープワークをやっておかないと、このような笑いごとでは済ますことのできない悲惨な事が起こりえるだろう。 そのためにも、数の少ないそれぞれの目的に応じた、また応用ができるロープワークをクルーを交えてみんなで練習しあうことが必要だ。ヨット乗りの経験をもつクルーがいれば、おそらくヨットで教育された理にかなったロープワークを知っているだろうし、そでなければこれから紹介する最低のロープワークはみんなで練習しておいてほしい。

 大別すると、まずはもやいに代表されるアイ(輪っか)を作るもやい結び、フェンダーなどをぶら下げ、その調整に便利なまき結び。船には必ずあるクリートに結びつけるやり方。ロープを揺れる船の上で保管してもこんがらなく、実際に使うときにはすぐ使え、また放り投げてもちゃんと一本のロープとして飛んでいくコイルの仕方。この4つだけ覚えておけば問題がないのだ。

 さて、今回はロープワークという、クルーにとっては必ず必要なことを書いてきたが、これらを指導するのはもちろん船長である。そして、船から引き揚げるときには、それぞれちゃんとロープワークができているか、舫いは安全かを確認するのも船長の仕事だ。そういう意味で、係留されている船のもやいをみると、おのずと船長の技量が見てとれてしまうのであることを、4:6の法則の一つとしてお考えいただきたい。

クリート結び

基本中の基本。よくぐるぐる巻きにしたり、基礎を抑えていない結びをみるが、これだけは本当に恥ずかしいことだと思ってほしい。シンプルにクリートにもやわれているのは、出ようとするロープの力を利用してクリートに押さえつけてくれ、どんなに強烈な力で引っ張られていても簡単に解くことができる洗練された形だ。

もやい結び Bowline Knot

アイ(輪っか)を作る為に船には絶対に必要な結びだ。アイ自体のみが解けたり、どんなに強い力で引っ張られても切断することもなく、またアイが縮まらないように、さらに解くときには簡単にできる結び。応用として落水時などにも、自分の体にまわしてもやい結びをしてホールドすることもできる。たとえ目に見えない水中にロープがあっても、自在にもやい結びができるように訓練するべきだ。レース艇のヨットのクルーとして乗り込むときに、目をつぶってもやい結びができないと乗船を許可されないということもあったくらいだ。

巻き結び Clove Hitch

引っ張れれば引っ張られるだけ強くまきつくように考えられた、シンプルで効果的な結び。 調整も簡単、解くのも簡単。ただ、フェンダーなどを長期にわたって固定するには、もう一工夫が必要にはなる。というのは、引っ張るテンションが一定でない場合、解けてしまうくせがある。そんな時には2重でまいたりの工夫が必要になる。応用としては、ボラードなどに使え、わっかを2つ作って先端側のわっかを上にするように交差させれば簡単にできる。また縦棒に対してはその取り付け位置が引っ張られる強さによってずれにくくする工夫もできる。

ロープコイル

いつでもさっと使えるようにしておくのがこのコイルだ。揺れる船のロープロッカーの中でもお互いが絡まないように用にも考えられている。そして投げてもちゃんと一本のロープに戻るようになっている。コツは、単にループするのではなく、ロープのよじれを生じないようにロープをねじりながらコイルすること。よじれが原因でループが8の字になってしまい。コイルが干渉しあってからんでしまうのを防ぐことができる。


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