デッキシューズ


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むかーしに書いたコラムです。


船にかかせないデッキシューズの事を書きました。ボートでは真夏でもぞうりなどは安全面を考えると御法度です。そこで、デッキシューズというものが活躍するのですが、素足で履くので汗を掻くと臭くなりそう!とお考えの貴方に、秘密の対策を暴露!(ちなみに写真のデッキシューズは、文章にでてくるトップサイダーではなく、えっへん!ティンバーランドです)


 


ちょっと長めですが楽しんでください!


 


「デッキシューズ」


だいぶ前になるが、世界一周レースをしていたBT Global Challenge のヨットと共にイギリス人を中心としたクルー達が横浜のマリーナにやってきた。


乗組員総勢約100人もの紳士・淑女が女王陛下のお墨付きで9隻のレース艇に分乗しての来日だった。さすがはサーやマダム達、実は彼らは一人約1000万円もの大金を払って、ヨットでレース・クルーを体験しながら世界一周をするというとんでもなく金持ちのお遊びだった。


英国大使館の協力要請もあって、2週間半の横浜滞在の中でその艇の一般公開もあり、世界一周をする艇やリグ、機器類はもとよりその整然とした清潔な居住区を拝見して圧倒された。


ニホンジンの文化が知りたいとの理由で、横浜のインタコンチネンタルホテルをキャンセルしてまで鎌倉の小さい我が家にホームステイをした老齢なオールドソルト。社会的にもサーのつくようなリッチな生活ぶりから想像したが、決して女性クルーが多いから、お金持ちだからという理由で清潔なんではないなと実感したのは、彼らのデッキシューズを見てである。


僕にとって嬉しかったのは、僕の定番である茶スエードのモカシンを素足に履いていて、それぞれ世界一周の長い航海で使い古された物だけれど、うちの玄関に脱いだサーのモカシンも例外無く、全員きっちりとミンクオイルで手入れされており、水掃除の時などはかかった水をバンバンはじく。


 


最近、海外のレースシーンでは今ふうというか、テニスシューズのようなジョギングにでも直ぐ行けちゃうぞというタイプにソックスを履いてというのを良く見るが、やっぱり水仕事の多い船乗りのデッキシューズには素足に茶色のモカシン、これでしょう。


それをきっちりミンクオイルで手入れをして、大切に履いている。


イヤーこれぞ海のファッションだなと思うのは僕だけだろうか。


彼らの滞在中、天気の良い日に艇のデッキの上で日光浴をしながら、デッキシューズにミンクオイルを自分自身で塗りこんでいる姿を何度となく見たけれど、やはり好感が持てる。


 


むかし、鎌倉の海しか知らなかった僕が田舎ものだったんだろうけれど、


デッキシューズというとなんといってもトップサイダーが一番だった。


ソールはスペリーの波型が刻んである奴で、不思議とあのソールはデッキの上で滑らない、


かといって雪の上なんぞあのソールで歩くと歯の無いそりのようにくるくる滑って歩くどころではないのだけれど。


キャンバス地の奴もカッコヨカッタし、モカシンもかっこいい。


もちろん素足で履いて、あれこそマリーンというカンジ。


マー当時はまだ360円で取引されていた頃だったのだろうから、とっても高価なものというイメージもつきまとっていて僕にとっての商品価値を高めているのだろうけれど、でも是非あの伝統的なスタイルは、ロミカのマリンブーツと共に頑張って欲しい。


 


話しは飛ぶけれど、


あれらはやはり水とは縁のきれない海では、素足で履くところにカッコよさがあると思う。


だが、素足で履くと匂いがなーとお考えの方も多いと思う。


僕は若い頃、どうせ日本人より体臭のきつい外人が履いているのだから、絶対に平気と思っていたんだけれど、ある雨の日の暖房をかけた車の中で、ふとたまらない濃密な匂いが自分のものと気づいてショックを感じたことがある。


ちょうどそんなとき、フロリダで知り合ったヘミングウエイのようなおっちゃんのモカシン素足が不思議と匂わないので、恥ずかしながらつたない英語でズバリ過ぎる表現を使って聞いたことが有る。その時の彼の答えが、その後ズーと僕が守り通している秘術なので、特に皆さんにも伝授しよう。


 


「1ペニー払っているからね」と彼は笑って答えてくれた。


なんの事かわからない僕に見せてくれたのは、彼のデッキシューズの中には新品のように磨かれた1ペニー硬貨が一枚づつ入っていた。


1ペニー硬貨は銅でできているので、その銅の成分が匂いを消してくれるというのだ。


僕も早速やってみると、本当にどんなに足の裏に汗をかいても匂うことが無かった。が、問題は日本に帰ってきてからだった。


日本国内では一般的にアメリカにいるときよりも靴を脱ぐ機会が多く、また靴を脱ぐときに足の裏に硬貨が引っ付いてきて、そのまま1ペニーがどっかいっちゃう。


1ペニーの供給が間に合わなくなってきた頃、いろいろ考えて偉人の顔が描かれていない10円玉で試してみると、これがいいのである。


それ以来、僕の靴には10円玉が必ず入っていて、いろいろな船におじゃまをして靴を脱ぐ際に、僕の汗でピカピカに磨かれた10円玉をまれにお土産においてくるようになったのだけれど。



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