出港いたしました!の流れで「航行」
ゲストをケアするために一人はゲストの居る所で目立たぬようにそれとなくゲストワッチをしてもらっています。飲み物などのサービスだけでなく船酔いは大丈夫か、トイレに閉じこもっていないかも。
手の空いているクルーはヘルムを取る僕の脇でワッチ。
これはキャプテンである僕一人の二つの目でなくたくさんの目がワッチしてくれる方がいいからです。その代わり、僕はワッチしてくれるクルーに言っています。僕を信用しなくてよろしい。僕がわかっていると思っても、自分が気づいた行き交う船の動向、目の前のゴミ、なんでも声を出していってくれと。指差しでも構わないと。勿論言われた僕は決して「そんなことはわかってる!」なんて絶対にいいません。たまに言われてはっとすることもあるんです。だから常に「ありがとう」と言っています。リスクが減るから。
そして、できる範囲30分交代でヘルムを交代してもらっています。今までの航海である程度判断力を教え込むことができ彼を信用することができるので、ボースン君にヘルムを交代してもらっています。この30分というのは今までの経験で集中力が持続できる時間ということと、30分毎の積み重ねにより定時にエンジンチェックや他のことにも目配りができるからです。交代する時はわかり切っていても基本通り、針路方位、エンジン回転数と現在の状況をお互いに復唱するのがベスト。なぜ今このスピードなのか、こののちどういう変化が見込めるか、をお互いに理解し合います。そしてエンジンルームに潜り、オイルや冷却水、燃料の漏れがないか、匂い、異音がないか、エンジン各部に手を当てて異常温がないか、ドライブは円滑かを定時に確認します。キャビン内をチェック、ゲストの様子などを確認いたします。慣れるとボクサーではありませんが体で30分がわかるようになります。その都度、自船位置、針路方位、ETA、海象を確認する余裕もできます。
その後は時間までヘルムと一緒にワッチ、ヘルムをとっている考え方を様子見て、気がついたことは遠慮なく言います。こうやってリスクの軽減を計っています。
さて、航行、走らせ方。これは70フィート、20m以上もの長さに比べてビームが6m弱の船となると40フィート前後の船とはレングス比、水船長が長い船というのは、走らせ方が違ってきます。船が長いので波の上に立った時、ちょうどシーソーのように船の真ん中に支点ができ、それって長い板が楔の上に乗っかり、しかも自重があるのでたわんでいる状態にならざるをえません。逆に波の谷間のあり方によっては、船首と船尾に下からの圧力がギュッと加わっている状態があります。船の剛性もありますが、完璧にモノコックとはなりえません。
大型の数千トンクラスの船に乗るとよーくわかるとおもいますが、僕は東海汽船によく乗りましたが三等の雑居部屋で雑魚寝をしている時、ローリングとピッチングを繰り返す船の中で、僕が感じた揺れはまったく想定できないねじれによる揺れが加わり船酔いしたことがあります。船酔いには自信があっただけに、あのねじれによる理解不能な揺れ方には平衡感覚が追いつきませんでした。船はねじれるものです。それを理解して走らせないと、船には必要以上の負担をかけてヒビが入ったり、FRPの船であればレイヤーの剥離、構造体とシェルのつなぎの損傷、何か精密機械の変調をきたしたり壊れたり無理強いさせていることになり、いずれは操船者の意図を受け付けてくれなくなります。
それと駆動力であるエンジン。もし、駆動力がなくなってしまえば、波の中で揺れる木の葉と一緒になり、その揺れ方はしっちゃかめっちゃか、横波でひっくり返るまではいかなくても波の当たりによって、、、。水船長とエンジントルク、この二大要素に加えて船型を考えて走らせてください。
もちろんシーマンシップ、自分より弱者をいたわる、守る走り方もしなくてはなりません。他の船にできるだけ迷惑をかけない。正直いうと、他の船の操船を信用してはいけない。まったく知らない人でも操船でき、ベテランでも居眠りしていることもあるからです。そして、業務船に対してはたとえ小さい漁船でもリスペクトして走らせる。だって、こちらはプレジャーなんですから。何かある時は海のプロの彼らが助けてくれるんですもの。
それらを前に前に、先手先手で行うようにしています。それは遠いところでは針路方位一度二度の変針で済みあまり気がつくゲストはいませんが、決断や観察が遅れて近くなり後手となってしまうとオーバーアクションにならざるを得ないからです。
空を観察していても、あそこは雨が降っている、あそこは風があると観察しながらできるだけ早く回避行動をとっていれば、ゲストに負担を感じさせることもないからです。
僕はそのために双眼鏡もすぐに手に取れるようにしています。
常に先をシミュレーション、先手を取れるために観察を怠らないように心がけて走らせています。
後手は最悪。板子一枚地獄の果てという乗り物。場合によっては命取りです。
これは、風頼りに走らせるヨット乗りには絶対なもの、それを学生の時、外洋帆走時代に緒先輩方から時にガツンと拳骨で訓練してもらいました。今となれば感謝です。
ボースンのR君、他に何か僕が忘れている付け足すことはあったかね?