アンカーリング


アンカーリング

取材旅行から戻りました。旅先で面白い船があったのでそれはまた紹介いたしますね。
今回は、出港準備、航行と続いたのでその流れでアンカーリング。
アンカリングこそ、スマートにやりたいものです。
だって、止めようとしている船がアタフタしているとカッコ悪いもの。

まずはアンカーリングすべく泊地の選定。
よく聞くのは風向き関係なくこの間ヨカッたからそこ行こうと言われますが、なぜ良かったのかの理由が一番問題です。

水の綺麗なところとも言いますが、潮や、前日の雨などで海の綺麗さは変化することをお忘れなく。せっかく来たのに期待はずれということはままあります。レストランや施設が目的なのであれば、その利便性と船から見えるところかなど、目的に応じて泊地やアンカリングポイントが変わります。
そして、その日の風向きがどうかが問題になります。泊地で船が揺れたらいやですもの。
泊地となるところは風よけとなる岬や山などの陰を選び、そこがアンカーリングに適した砂地かをチャートやGPSの情報で調べます。リーフなどにアンカーが引っかかると帰りにアンカーが抜けなくてシクハックの上、下手するとアンカーを捨てて帰らなければならない事態に陥ることがあるからです。リーフに適したアンカーもありますが、大抵船に用意されているのはダウンフォースかブルース、デルタなどの砂地用のアンカーが用意されているからです。
深さは船によりますが5m前後のところがベスト。

今回は、僕の乗っているFerretti72でのシミュレーションを紹介いたしますね。
Ferretti72にはバウに二本の30kgブルースアンカーがそれぞれ90mのアンカチェーンで用意されています。
まずはクルーと打ち合わせをします。
その日の目的がなんなのか、泳ぐためにアンカーするのか、食事会をするためか、何処かにテンダーで上陸するのが目的なのか。それによって止めるポイントが違ってくるからです。ただ基本はとにかく波や吹き抜ける風、潮流のない平穏な水面、船が安定して走錨しないことが望ましいのですが。
場所や季節によってはデンキクラゲやヒョウモンダコでしたっけ、人に危害を加える生物がたくさん溜まっているところもあるのでそれらもみんなで観察するように指示します。
そして手順とそれぞれの役割をざっと打ち合わせいたします。リモコンでウインドラスが動かせるので、大抵ヘルムを取る僕とバウマンの二人で行い、あとの人員と言っても女の子一人ですがゲストのケアにあたります。

泊地には他の船がいるいないに関わらず、デッドスローで自船が引き波の影響の無いように入って行きます。たまに引き波を立てて入ってくる船を見ますが、もちろん、停泊している船にとっては迷惑千万、そればかりか、自分の引き波が陸に当たって返し波となり自船がピンポイントでアンカーするのが難しくなるからです。
他船への距離を測ります。自分がアンカーを落としたところから風が変わっても振れ回しがとれる距離を測ります。その上で、アンカーポイントできっちり行き足を止めます。そして、風上に回頭。この時、ヘルムの位置だけで判断するのではなくバウ先にいるクルーにもどっちの風か確認します。風上にヘディングが向いたところできっちり船を止めます。これ、いい加減にやると船の向きがズルズル変わって自分の思い描いた位置にピッタリ停められなくなるからです。
この船ではアンカーの先っちょcrownにロープをシャックルで着けます。アンカーブイを用意しているので、停泊中にアンカーの位置が明確にわかるのと、万が一海底に食い込んだアンカーが抜けない時にはこのロープを引くことでflukeが抜けやすように配慮したものです。これをやっている船って見たことがないけれど、こんなに便利なこと何故やらないのかなーと思うほどアンカーブイは有効です。

魚探で見た深さを知らせます。そして、準備ができたら合図をしあってレッコ!
ちなみにこの「レッコ」という言葉は海では「捨てる」とか「投げる」という意味でよく使いますが「Let's go」の意味だそうです。
クルーが出て行くアンカーを見て錨が底を着く長さが出た時に合図してもらうとなお良いですが、この船では上架した時にアンカーチェーンにペンキで印を打ってあるので操船席からも何メートルでたかおおよそ分かります。アンカーが底を撃ってもまだ動かず定位置をキープ、僕は深度の二倍あたりからソロっと後進をかけます。これは、しっかりアンカーが底に寝て少しアンカーチェーンがてんこ盛りになったところを狙ってのことです。そろそろと下がり出しながら深度の三倍までアンカーチェーンを出してもらいます。そこでチェーンだしはストップし固縛。船に後進をかけた行き足でflukeが海底に食い込むのを待ちます。キャプテンである僕はアンカーブイの位置と周りの船との距離を留意。クルーはアンカーチェーンを目視し、ゆっくりとピンと張るの待ちます。一度張ったあと、ゆっくり船が戻ればまずは海底にアンカーが食い込んだ印。その後ズルズル下がっていないかを確認します。ズルズル下がっている時にはアンカーチェーンががピンと張ったままになりがちになります。あまりに効かない時には、さらにチェーンを出してチェーンの自重でバイトしないか様子を見ます。そして、見通し線を複数陸地に見て船が定位置にいるのかを確認いたします。見通し線と言うのは、手前の松が遠く向こうの山や建物との重なり合う線です。これを違う角度というか方向に最低でも二箇所想定して観察します。風向きも感じてください。その上で、走錨していないかを確認してからエンジンを止めて完了します。ズルズルと下がってしまい、他船との位置関係に不安があれば打ち直しをすぐにいたします。

停泊中は常に周りの景色に気を配ってください。走錨していないか、周りの船が近づいてこないか。さらに、上空の風はどうか、周りの山などの木が揺れていないか、入港して来た海の様子を見ながら風が変化していないか。
よくあるのは停泊地が平穏でも、外の海はガラッと様変わりしていることがあるからです。
そして、例えばゲストが泳ぐ時には必ず見張りを。
海に慣れていないゲスト、潮や風で流されないか、足がつったりしていないか、危険な岩場に行こうとしていないかなどなど、怪我をされたり自力で船に帰ってこれなかったりすることがあるとケアをしなければならないのはシーマンである我々しかいないからです。
たまにクルーどおしで酒を飲む時に、救命の仕方など話し合っています。ライフガードをやっていたというくらいなら任せることができますが、我々救命の素人が下手に溺れた人に近づくとしがみつかれて二次災害を起こすことがあります。そのためのシミュレーション。
我々の船ではゲストが泳ぎだすとタオルの用意と共に、必ず船備え付けの救命浮環のロープをさばいて用意しています。

さて、抜錨。
エンジンをかけ暖気させている間にキャビンの中を整理。
スイミングステップなど忘れずに確認してください。
そして、バウマンの指示、これはアンカーチェーンがどっち向いているかを示してもらってその方向に船を向けゆっくりと、ヘルムからも見えるアンカーブイに向けて前進させアンカーチェーンが緩んでから巻き上げています。アンカーチェーンの角度を示してもらい、海面に急角度、理想はアンカーの真上で船をキープ。アンカーが海面を切ったところで指示をもらい、もし急ぐ理由、潮や風が強く流され危険という時にはソロソロと船を動かし出します。クルーのすべての作業が終了するまではデッドスローなどで船の安定した状態を保ちます。
船内の安全確認、ゲストのケアが済んでから増速確認をして航行に戻ります。

こんなところかなー。
アンカーにロープだけでムアリングするのは船の大きさにもよりますが案外難しいです。ロープだけだとアンカーが海底に寝てくれない時があるからです。
アンカーをレッコする際にはソロソロと下ろすのではなく、ロープに余裕を持たせて放り込んでアンカーが早く海底に着くようにした方がポジショニングしやすいです。ただ、アンカーのflakeが翼となってあらぬところに走ることにはなりますが。着床したらロープを出しながらゴーアスターンをしっかり目に。深度の三倍以上のところで船にホールドさせ、アスターンの行き足の力で無理クリバイトさせるイメージです。最初はチョット滑る感があるかもしれませんが、flakeさえバイトしてくれればアンカー自体が砂に潜り込みビタっと止まります。

 


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